はじめに
競馬界において、競走馬の血統が成績に大きな影響を与えることはよく知られています。この記事では、日本競馬の血統支配率について詳しく解説していきます。血統支配率とは、ある血統がどれだけ競走馬の勝利に関与しているかを示す指標です。ここでは、各系統の代表的な種牡馬とその産駒たちの活躍を追っていくことで、日本競馬界における血統の傾向や力関係を探ります。さらに、三大始祖や主流血統についても解説しますので、競馬ファンはもちろんのこと、競馬に興味を持ち始めた方にも役立つ情報が盛りだくさんです。
ディープインパクトと血統支配率
近年の日本競馬界において一大勢力を築いた種牡馬と言えば、ディープインパクトです。ディープインパクトはその卓越した競走能力で無敗三冠を達成し、その後も天皇賞や宝塚記念、ジャパンカップ、有馬記念など数々のG1レースを制覇し、また種牡馬としても多くの優秀な産駒を送り出しています。現在の日本競馬界においてディープインパクト系の血統支配率は非常に高く、その血を引く競走馬たちは中距離レースを中心に活躍しています。
ディープインパクトの代表的な産駒
活躍したディープインパクトの産駒は数多くいます。牝馬では牝馬三冠にも輝いたジェンティルドンナが獲得賞金額がトップ。牡馬では父子での無敗三冠となったコントレイルのほか、日本ダービー優勝馬だけでもキズナやマカヒキなど多くのスターホースを輩出しています。これらの馬はディープインパクトの血を受け継ぎ、日本だけでなく海外でもG1レースで勝利を収めるなど、その能力の高さを証明しています。また、ディープインパクトの系統には「差し」「追い込み」が得意とされる競走馬が多く、特に芝のレースでその能力を発揮します。
ディープインパクト系の競走馬は、父のしなやかで切れ味のある末脚という形質を受け継ぎ、最後の直線で他馬を一気に抜き去るスピードが魅力です。そのため、追い込み馬が得意とする芝のレースでこの血統が活躍することが多いのです。これからも、ディープインパクト系の競走馬たちが中心となって日本競馬界を牽引していくでしょう。
血統分析の重要性
競馬において血統分析は非常に重要な要素となります。血統を理解することで、ある競走馬がどのようなレースで活躍する可能性が高いか、どのような展開が得意かといったことを予測することができます。ディープインパクトのように有名な血統であれば、その特徴や傾向が明確になるため、その血統を持つ競走馬の能力を推し量ることが容易になります。
しかし、血統分析を行う際には注意が必要です。競走馬の能力は血統だけで決まるわけではなく、調教や馬場条件、騎手の技量なども大きく影響します。そのため、血統だけに頼らず、総合的な情報をもとに競走馬の能力を判断することが大切です。
三大始祖とその血統
競走馬の血統は遡ること、ダーレーアラビアン（推定1700年生まれ）、ゴドルフィンアラビアン（推定1724年生まれ）、バイアリーターク（推定1680年生まれ）の三大始祖にたどり着きます。それぞれの始祖の血統には、独自の特徴や傾向があります。ここでは、三大始祖の血統について詳しく解説します。
ダーレーアラビアン系
ダーレーアラビアンは18世紀にオスマン＝トルコのアレッポで生まれ、英領事トーマス・ダーレーによって購入され、本国へ送られました。その後、エクリプスを含む5代目の父系から派生したエクリプス系が90％以上の占有率を誇り、セントサイモンの誕生などでさらに発展します。エクリプスと言えば「Eclipse first, the rest nowhere.」ということわざで有名ですね。彼は1764年生まれで、18戦全勝の成績を収め、その中には過酷なヒートレースも含まれます。エクリプスは気性の激しさでも知られています。その気性の激しさ＝負けん気の強さによって、競走馬としての能力を十分に引き出すことができたのでしょう。
19世紀初頭までバイアリーターク系と競り合い、その後、競馬史的にも血統的にもサラブレッドに一番影響力をもたらしたとされるセントサイモンが勢力を広げました（「セントサイモンでなければ競走馬ではない」とまで言われたそうです）。セントサイモンは急速に大発展したものの、血のジレンマに陥ります。牡馬も牝馬もセントサイモンだらけになり、急速に衰退してしまいます。これは「セントサイモンの悲劇」と呼ばれています。これはセントサイモンの血が急速に広がりすぎたことが原因でした。セントサイモン系の種牡馬とセントサイモン系の牝馬の配合では、セントサイモンの血が濃くなりすぎます。そのため有力馬の配合機会が少なくなっていき、活躍馬を輩出できなくなってしまうということになります。日本でもサンデーサイレンスで同じことが危惧されたことがありました。
20世紀に登場した大種牡馬・ネアルコはダーレーアラビアン系の優位性を確立し、その系統から派生したナスルーラ系やノーザンダンサー系が繁栄しました。日本の競馬においてもヘイルトゥリーズンを通してサンデーサイレンスやブライアンズタイムが、グレイソヴリンを通してトニービンがネアルコの血統を受け継いでいます。
ゴドルフィンアラビアン系
ゴドルフィンアラビアンは1724年に北アフリカで生まれ、モロッコ皇帝からフランスのルイ14世に贈られた後、パリで散水車を引く荷役馬になるなど波乱の運命を辿りました。現在の3大父系の中でダーレーアラビアン系が支配的である中、なんとゴドルフィンアラビアンがエクリプスの母の父だったのです。ゴドルフィンアラビアンは彼から数えて3代目であるマッチェムによって大きく発展し、マッチェム系として知られるようになりました。マッチェム自体は競走馬としては目立ちませんでしたが、産駒から優れた競走馬や種牡馬が続出し、特にコンダクターがトランペッターを生み出して現在に至る系譜を築きました。
マッチェム系はヨーロッパでは傍流に甘んじていたが、スペンドスリフトがアメリカで成功し、マンノウォーなどの名馬を輩出。日本でも持込馬の月友（父はマンノウォー）を通じて影響を与え、マンノウォーが母の父となるスターロッチの牝系からサクラユタカオー（父は「お助けボーイ」ことテスコボーイ。父系としてはナスルーラ系）などが成功を収めました。ナスルーラ系などと相性がよく（ニックス）、マンノウォー系は牝系で影響力を持っています。
フランスの系統も日本に入り、ウォーレリックを経てヴェンチア（トウショウボーイやテンポイントの同期でその年の日本ダービーを勝ったクライムカイザーや、「華麗なる一族」イットーの父として有名）、ミンシオ（Mtotoの母の父）、シルバーシャーク（オグリキャップの母の父）が成功しました。マンノウォー系からの成功例は一時途絶えていましたが、2004年にサニングデールが高松宮記念を勝利（ゴドルフィンアラビアンの直系としては、クライムカイザー以来のJRAG1勝利）。同じ父ウォーニング産駒のカルストンライトオもスプリンターズステークスを勝っています。ウォーニングは欧州の名マイラーで、インリアリティ、ノウンファクトの流れを引き継ぎ、日本に輸入されました。
バイアリーターク系
バイアリータークは1680年頃に生まれ、イギリスがトルコとの戦争中にロバート・バイアリー大尉によって捕獲され、その後ヘロドとその子・ハイフライヤーの活躍によって父系が存続しました。ヘロドはエクリプスと同じくカンバーランド公の生産馬で、競走成績は特筆されるものではありませんでしたが、種牡馬としてエクリプスを凌ぐ成績を挙げました。というのも、かの偉大なエクリプスでさえ、ヘロドとハイフライヤーの前では一度もリーディングサイアーを取ることができませんでした。
バイアリーターク系は一時繁栄し、しかし19世紀後半に急速な衰退が始まり、20世紀の初頭にはアメリカのレキシントン系も直系の父系が消滅しました（牝系ではムムタズマハルを通して、現在でも強い影響力を保持しています）。ヨーロッパではリュティエ、ロレンツァチオの系統が残るものの、大きな復活の兆しは見られず、ザテトラーク系はほぼ消滅状態となっています。
日本に輸入されたパーソロンはシンボリルドルフやメジロアサマを輩出し、そこからトウカイテイオーやメジロマックイーンなどのスターホースにつながっていきました。トウカイテイオーはトウカイポイントを輩出しました。メジロマックイーンは母の父としての影響力が高く、オルフェーヴルやゴールドシップに影響をもたらしています。パーソロン系は一時隆盛を極めましたが、今ではトウカイテイオー直系のクワイトファイン、そしてメジロマックイーン直系のギンザグリングラスを残すのみとなっています。パーソロンと同じトウルビヨンの系統でいうと、1978年に日本に導入されたマイスワローの血はラッキーキャストを通してフジヤマケンザンを出し、1995年香港カップ（当時国際G2）制覇を成し遂げました。フジヤマケンザンは残念ながら血を繋ぐことができず、現在は直系父系は途絶えています。
そしてリュティエの血はダンディルートービゼンニシキを通じて、ダイタクヘリオス（1991年・1992年マイルチャンピオンシップ連覇）につながります。ダイタクヘリオスも種牡馬として活躍し、2000年スプリンターズステークスを勝ったダイタクヤマトを出しました。しかしそこから血を繋げることができず、現在では消滅してしまっています。
主流血統とその特徴
現代の競馬界において、特に影響力が大きい血統をいくつかピックアップし、それぞれの特徴について解説します。これらの血統は日本競馬界だけでなく、世界中の競馬で活躍する競走馬たちが多く、その影響力は絶大です。
サンデーサイレンス系
日本競馬界で最も影響力のある血統がサンデーサイレンス系です。サンデーサイレンスの産駒であるディープインパクトがその代表格であり、この血統は特に芝のクラシックディスタンスで活躍することが多いです。サンデーサイレンス系の競走馬は、サンデーサイレンス自身の気性の荒さを受け継ぐ傾向がありますが、その気性の荒さはレースでの勝負根性へとつながっていきます。そしてサンデーサイレンスはそのしなやかな筋肉からたぐいまれな瞬発力を秘めており、米国クラシック戦線やBCクラシックでの活躍が示す通り、スピードやパワーがあります。サンデーサイレンスの産駒はそれらの能力を引き継ぎ、レースで圧倒的な強さを発揮します。
サンデーサイレンス系は、日本の競馬を大きく変化させ、進歩させました。実際にサンデーサイレンスがもたらしたものは日本の高速競馬、そして海外遠征での重賞勝利です（近年ではヨーロッパのみならず、ドバイやサウジ、アメリカでも勝ち馬を輩出しています）。しかしながら、サンデーサイレンスの血があまりに強い馬を作り出すため、既存の日本血統（多くはヨーロッパ血統で、「重い」血統とされていました）を駆逐した面も否めませんでした。競走馬の血統の多様性が、少なからず失わせてしまったのは事実だと思います。社台ファームなどの日本のホースマンたちは、サンデーサイレンスの血が入っていない海外から種牡馬や繁殖牝馬を多く輸入しています。そして、サンデーサイレンスの血が入っている種牡馬／繁殖牝馬でも種付けが行えるように努力をされています。サンデーサイレンスの血脈はそういった功罪がありつつも、現代の日本競馬界を支える大きな柱となっており、今後もさらなる発展が期待されています。
ディープインパクトは大いに繁栄しましたが、後継種牡馬争いが激しくなっています。ディープインパクトの全兄であるブラックタイドがキタサンブラックを出し、そのキタサンブラックの血が現在の競馬界を大いに賑わせています。サンデーサイレンスの血は、ディープインパクトではなく、その兄ブラックタイドからキタサンブラックへバトンが渡され、イクイノックスなどがその血脈を繋いでいくのでしょうか。はたまた、コントレイルが初年度から大物産駒を出し、ディープインパクト系が再び主導権を握るのでしょうか。今後がとても楽しみになってきますね。
ミスタープロスペクター系
主に米国で主流となっている血統がミスタープロスペクター系です。ミスタープロスペクター自身はダートの短い距離を走っていましたが、様々な条件で走る馬を生み出しています。アメリカではコンキスタドールシエロをはじめとしてクラシックホースを輩出しました。日本ではエルコンドルパサーやキングカメハメハが芝のマイル～中距離戦線で活躍しています。
ノーザンダンサー系
ノーザンダンサー系は、現在流行しているストームキャット系をはじめ、ニジンスキー系やサドラーズウェルズ系、ダンジグ系など、多くの有力な血統を擁しており、世界中で活躍する競走馬が多数います。ノーザンダンサー系の競走馬は、加速力とスピードの持続力に優れており、芝・ダートも問いませんし、短距離から長距離まで多種多様なレースで活躍しています。
ナスルーラ系
ナスルーラ系は、日本競馬にとって大変なじみが深い血統です。日本におけるナスルーラ系で切っても切れないのは、なんといってもテスコボーイ。トウショウボーイを出したことで有名です。残念ながらトウショウボーイから後継種牡馬は出ませんでしたが、サクラの冠名でサクラユタカオー、サクラバクシンオーとつながり、現在グランプリボスとビッグアーサーが種牡馬として活躍しています。グレイソヴリン・ゼダーンの血脈を持つトニービンが日本にやってきました。トニービンはウイニングチケットやエアグルーヴを出しました。残念ながらトニービンの直系はトーセンジョーダンのみとなっており、オウケンブルースリやトーセンジョーダンの産駒がつながっていくかというところが今後注目されるところです。また、アメリカにおいてはボールドルーラーを通じて、偉大な三冠馬セクレタリアトが生まれています。
まとめ
日本競馬の血統支配率について、ディープインパクト系やサンデーサイレンス系など、各系統の特徴や影響力を詳しく述べてきました。さらに、三大始祖や主流血統についても解説し、競走馬の能力や傾向を理解するための情報を提供しました。
競馬において、血統や系統の知識は選馬やレースの予想に大きく役立ちます。この記事で紹介した情報をもとに、競馬の世界をより深く楽しむことができることでしょう。競馬の楽しみ方は人それぞれですが、血統に関心を持ち、その背景や歴史を学ぶことで、より一層競馬を堪能することができます。
